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「やってみなはれの極意【その<23>】」~リーダーシップの要諦【Chant VIP】メソッド~
振返ってみれば、2024年は政治的緊張と新たな挑戦が世界と日本で展開された年でした。世界では、ロシアとウクライナの紛争が続き、欧米諸国が支援を強化する一方、エネルギー問題や物価上昇が深刻化しました。また台湾問題を巡る米中関係の対立が激化し、アジア太平洋地域での安全保障が注目され、国内では、少子化や物価高に対応するため、子育て支援の充実や年収の壁等の議論が活発化しました。日本国内においても、企業経営において大きな話題を呼ぶ動きが相次ぎました。特に注目されたのが、セブン&アイ・ホールディングスの買収劇です。海外投資ファンドの圧力により、同社は中核事業のセブン-イレブンに経営資源を集中させるため、総合スーパー「イトーヨーカドー」の事業売却の決断を余儀なくされ、一方、自動車業界では日産自動車とホンダが経営統合を発表。自動車メーカーの電動車両(EV)の開発や自動運転技術での競争力強化を目的としたこの統合は、日本の自動車産業の将来に大きな影響を与えると考えられています。そして年末には、バイデン大統領が日本製鉄によるUSスチール買収について「国家安全保障上の脅威になる」として禁止を命じ日本にとって大きなシヨックとなるなど2024年は、企業が激しい競争環境の中で大胆な戦略転換を迫られた年であり、日本経済の構造変化を象徴する動きが目立ちました。このように日本を代表する企業においても、いまや国内マーケットだけでは大きな成長は期待できず、今後はグローバルにその企業の持つ独自の技術とソフトウエアーを連動させた差別的優位性を発揮できる新たな取組が必要になっています。
そんな中、先日大赤字だったソニーを見事復活させた元社長の平井一夫さんのリーダーシップ論についての話を聞く機会がありました。私自身この話の内容にいたく刺激されたことと、私が提唱する「結果の出せる最強のリーダーに必要な「Chant VPIメソッド(のちに説明します)」と重なる部分が多く、この内容についても、改めて紹介させて頂きたいと考えています。まずは平井氏の功績のお話から。平井一夫氏がソニーの社長に就任した2012年、同社は深刻な経営危機に直面していました。2011年度(2012年3月期)決算では、最終損失が約4,560億円に達し、4年連続の赤字を計上。特に、液晶テレビ事業は中国・韓国メーカーとの競争に敗れ、継続的な赤字を生み出していました。このような状況下で、2012年に社長に就任した平井氏は「選択と集中」を掲げ、収益性の高い事業への資源配分を徹底することで、ソニー再建の基盤を築くべく舵を取ることとなりました。彼の主導により、ゲーム事業(PlayStation)やイメージセンサー事業を中核に据えるなど「選択と集中」を敢行し、不採算だったPC事業「VAIO」の売却やテレビ事業の再編により、赤字体質を解消することに成功しました。特にゲーム事業はPlayStation 4の大ヒットにより収益の柱となり、2018年度には営業利益が過去最高の8,943億円を記録。また、エンターテインメント事業では映画や音楽分野を強化し、安定した収益基盤を確立しました。
前出した平井一夫氏のリーダーシップは、ソニーの業績を飛躍的に改善させた実績に基づく多くの学びを提供してくれます。平井氏は、就任当初、巨額の赤字に苦しむソニーを立て直すため、「感動を届ける」という明確なビジョンを掲げました。このビジョンは、単なる経営方針ではなく、社員一人ひとりの行動指針として浸透し、組織全体を一つにまとめる原動力となりました。平井氏のリーダーシップの中核には、透明性と信頼関係の構築があります。業績悪化の状況を社員に正直に説明し、企業全体で課題に取り組む姿勢を示しました。その一環として、ソニーの収益構造を徹底的に見直し、非中核事業を売却または縮小するという困難な決断を下したのです。特に、長年続けてきたパソコン事業の売却やテレビ事業の再編など、大胆な改革は多くの注目を集めました。さらに、平井氏の柔軟性と適応力も注目すべき点です。彼の指導の下、ソニーはエレクトロニクス事業中心のビジネスモデルから、エンターテインメントやゲーム、金融事業を柱とする収益構造へとシフトしました。そして前述した通り、PlayStationやソニー・ピクチャーズなどの事業を成長エンジンとして強化し、同社の競争力を再び世界トップレベルに押し上げたのです。
この迅速で的確な意思決定は、同社が赤字体質から脱却し、収益力を高める転換点となりました。また、平井氏はチームの力を最大限に引き出すことにも注力し、社員一人ひとりの才能や意見を尊重し、それを企業全体の成長に結びつける適材適所の人材配置を実現しました。彼は、「自分一人で解決するのではなく、組織全体で課題を乗り越える」というリーダーシップの基本を体現したのです。このアプローチは、社員の士気を向上させ、会社全体の生産性を高める要因となりました。このような変革を成し遂げるための柔軟な戦略は、変化の激しい市場環境においてリーダーが持つべき重要な能力を象徴しています。平井氏のリーダーシップは、ビジョンの明確化、透明性の確保、チームの活用、大胆な意思決定、柔軟性という5つの要素を兼ね備えています。これらの原則は、どのような組織や業界においても適用可能な普遍的なものであり、多くのリーダーが学ぶべき内容と言えるでしょう。平井氏はまた、チームの力を最大限に引き出すために多くの現場を精力的に周り、社員一人ひとりの声を聴き、それを経営に反映させることで、社員のやる気を大きく引き出しました。まさに彼は「自分一人で解決するのではなく、組織全体で課題を乗り越える」というリーダーシップの基本を体現したのです。
ここで平井氏の卓越したリーダーシップを例に、前述した「結果の出る強いリーダーシップ」についてお話をさせて頂きます。まずリーダーがチームを率いた際に、一番始めに取り掛からなければならないのは、チームの目指す「理念(Vision)」を明確に示すことです。「なぜこのチームが今ここに存在しているのか?」「我々がすべきことは何か?」「なぜそれをしなければならないのか?」という問いに自ら答えを出しながら、目指すゴールに向かって、メンバーの気持ちをひとつにすることが求められます。例えるなら、船の船長は全乗組員の先頭に立って「目的地への到着」というミッションを示しながら進みます。もし船長が目的地を把握できていなかったとすれば、いつになってもその船は航海を続けるしかないことになります。なぜビジョンが必要かというと、組織に集うメンバーは皆同じチームであっても、それぞれに異なった仕事を行っており、皆が皆同じ目標や目的に向かって進んでいるわけではありません。そこで組織に集うメンバー全員の意識を上位にある一つのビジョン一点にフォーカスさせることで、組織を一枚岩にまとめることが可能になります。平井氏が掲げた「ビジョン」はまさに「感動を届ける」というシンプルで明確なものでした。すべてのゴールは「お客様に感動を届ける」ことであり、技術者も営業も開発者もこのビジョンに向かって強い意志を持ち続けることができたのです。まさにチームにおける「ビジョン」とは周りの見えない夜道を歩く全社員に、進むべき方向性を照らしてくれる一燈といえるでしょう。
次に必要なのは「戦略と実行(Practice)」です。それは図にもあるとおり、目指す目標と現状のギャップを埋める手立てであり、目標を達成する手段や方法を指し示すものであります。例えば、目指す「ビジョン」がいくら素晴らしいものであっても、それを達成するための手段やプロセスが間違っていれば、どんなに頑張っても目標を達成することはできないからです。加えてその手段やプロセスを示すだけではなく、正しい戦略を立て、それを確実に実行する力を持たなければなりません。そしてその戦略を立てるにあたってはまず、難しいことを色々と考えるのではなく、既に与えられた与件や限られた情報から「正しい仮説を立てるセンス」が求められます。優れた経営者やリーダーは、その組織が抱える問題の根本課題を見抜き、それを解決するためのシナリオを考える力が優れています。平井氏がソニーを再生することができたのも、「苦戦していたパソコン事業の売却やテレビ事業の再編を行うとともに、ソニーはエレクトロニクス事業中心のビジネスモデルから、エンターテインメントやゲーム、金融事業を柱とする収益構造へとシフトさせることができれば、ソニーの収益構造を徹底的に改善することができるのではないか」という彼なりの仮説が正しかったからではないかと考えています。
最後に必要となるのは「組織風土(Inspire)」です。会社組織の中では、それぞれが異なる仕事を分担しながらも、最終的には会社やチーム単位で一つのものを完成させることが多く、そこには常に人と人とのかかわり合いが不可欠になります。仕事をスムーズかつ効率的に進めるためには、そこに集う「人間関係の質」の高さが求められます。そしてそれを実現することで、組織に集う全員のメンバーがやる気に満ちあふれ、多少のことでもあきらめない強い意志が培われることとなります。そのように本来人間が持っている可能性を引き出し、「いかにやる気やモチベーションを最大化できるか」が組織の生産性を高める上での鍵になります。人と人との関係性は組織におけるエネルギーを生み出しり、そのようなエネルギーは心理的安全性と相互理解が高い組織風土を醸成することにつながり、そのような組織風土を作りあげていくことが今のリーダーには求めれているのだと思われます。
平井氏の例でいえば、数多くの現場を訪問し、社員一人ひとりの才能や意見を尊重しながら彼らの話に真摯に耳を向傾け、それを企業経営に直接反映させました。まさしく「人をやる気にさせるのは心と心を素直に対峙させるしかない」という大原則を知り尽くしていたといえるでしょう。元東レ研究所所長の佐々木常夫氏は、「関係性の良い組織は持てる力の120%以上を発揮できるが、そうでない組織は持てる力の80%も力を発揮できない」と述べていますが、このことは、組織の成果やパフォーマンスが、メンバー同士の信頼や協力の関係性に大きく依左右されるということを物語っています。この考え方は、まさに組織内の人間同士の関係性を高めることが、組織のやる気を高め、目標に立ち向かう挑戦心が鼓舞されるという流れを示すものです。つまり組織の生産性や成長が、単に各メンバーの能力やスキルに依るだけでなく、チーム内の人間関係やコミュニケーションの質に密接に関連していることを示唆しています。
このように、リーダーシップにおける「理念(Vision)」「戦略と実行(Practice)」「組織風土(Inspire)」の重要性は、単なる理論ではなく、成功した企業やリーダーたちが実際に証明してきた普遍的な真理です。この点で、サントリーの創業精神「やってみなはれ」と私が提唱する「Chant VPIメソッド」は驚くほど通じるものがあります。たとえば、サントリーの創業者・鳥井信治郎氏は、「やってみなはれ」という言葉に、挑戦のビジョンを掲げました。それはただ単に成功を目指すのではなく、新しい価値を生み出し、人々に驚きと感動を届けるという目的に向かって、社員たちの心を一つにまとめたものです。このビジョンは、社員にリスクを恐れず挑戦する力を与え、結果的に「ウイスキーづくり」という日本で初めての試みを成功に導きました。
また、サントリーの歴史は、戦略と実行(Practice)を貫いた軌跡でもあります。たとえばウイスキーの成功を基盤に、ビール市場という全く異なる分野への進出を果たした際、あきらめず、へこたれない周到な市場調査や技術革新に裏打ちされた戦略がありました。そしてそれを実行に移す際、信念を持って最後までやり抜くリーダーシップが欠かせませんでした。さらに、「人をやる気にさせる力(Inspire)」は、サントリーが多くの人々に支持され続ける大きな理由の一つです。社員の挑戦心を引き出し、彼らが自主的に行動する風土を醸成することが、ブランドとしての魅力と競争力を高めてきました。このようにして社員一人ひとりが「やってみなはれ」という精神を体現することで、サントリーは常に成長と変革を続けてきたのです。「Chant VPIメソッド」は、こうした先人たちの成功を裏付ける理論であり、どの時代、どの組織においても通じる普遍的な原則です。今のような不確実性が高い時代だからこそ、経営者くちやリーダーは、自らが信じるビジョンを示し、戦略を実行し、社員の心を動かす力を発揮しなければなりません。そして、そのプロセスを「やってみなはれ」の精神で貫けば、結果として強い組織と持続可能な成長を実現できるのです。私も今後は、サントリーで経験してきたことを土台として、この「Chant VPIメソッド」をより進化させ、数多くのリーダーたちに、「やればできるという自信」と「とりあえずやってみようという勇気を」与えられるよう、精一杯このコンサルティング業務にゆったりと心血を注いでいきたいと考えています。


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