「やってみなはれの極意【その③】」どぶ板営業で学んだ「商いの情(こころ)」

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「やってみなはれの極意③」~どぶ板営業で学んだ「商いの情(こころ)」~
みなさん、こんにちは。株式会社チームフォース代表の神田和明です。
寒さも日々やわらぎ、春の訪れが待ち遠しい季節となりました。皆さん、いかがお過ごしでしょうか?                                   今回は、どぶ板営業で学んだ「商いの情(こころ)」と題して、サントリーでの業務経験が自分としてはいちばん長い「営業」に関してのお話をさせて頂ければと考えています。41年間のサントリー生活を振り返ってみると、リーダー→課長→支店長&部長→執行役員・支社長そして関連会社の社長を含めて、営業の第一線としての仕事が約35年になります。なんと私のサントリー生活の約85%は、現場で商品を売ることを自分のミッションとしていたのだと改めて気づかされました(笑)。
今回はそんな私の「営業観」について少し話をしてみたいと思っていますが、営業について語るとき、いつも思い出されるのは駆け出しの新人営業マンだった頃の数々の苦い思い出です。新入社員の頃は、学生時代の延長で何も考えず勝手気ままに営業をやっていた私は、常に数多くのトラブルや失敗をやらかしていました。いま思えばお恥ずかしい話ばかなのですが、その中で記憶に残っている話のうちの一つを紹介したいと思います。
サントリーに入社して3ヶ月ほど過ぎた頃、営業部署に配属された私は、担当を持たされることもなく毎日毎日事務所で電話での注文を受けるといった退屈な毎日が続いていました。そんなある日の営業会議で「サントリーウイスキーホワイト(以下ホワイト)のキャンベーン受注酒販店において、陳列(36本以上)活動についての打合せありました。その打ち合わせの結果、私を除く営業メンバー5人の陳列活動店数の積み上げ結果は30店となっていました。その際の部署でのホワイト受注の総店数が600店ほどでしたから、キャンペーン受注店数に対する陳列計画店数の実施率は5%に過ぎませんでした。
毎日電話の受注対応ばかりで面白くなかった私は、とっさに「えっ、受注店に対する陳列活動の店数がたったの30店(実施率5%)なんですか?」と思わず驚きの声を上げてしまいました。その話を聞いていた強面のリーダー格のK先輩が、「生意気なことを言うんじゃねえ!1店陳列(36本以上)することがどんなに難しいことかわかっているのか?」と烈火のごとく怒って私に噛みついてきまたのです。

その様子を見た私は、これは外に出してもらえるチャンスとばかりに平然と彼に向って「私なら3週間頂ければ、一人で100店陳列してみせます」と大口をたたいたのです。その時の私は、何でもいいから早く外に営業に出で酒販店を訪問してみたいたいという衝動に駆られていたがゆえの発言でした。入ったばかりの若輩者に営業としてのプライドを傷つけられた課のメンバーたちは怪訝な様子で「やれるもんならやってみろ・・・」といわんばかりの表情に満ちていました。私の言葉を耳にした課長は私の方を向き、うっすらと笑みを浮かべて、「おう、そこまで言うんなら面白いじゃないか、やってみなはれ!」と私に酒販店を訪問しホワイトの陳列活動をすることを許してくれたのです。
その次の日から私は血眼になって、ホワイトのキャンペーン受注店リストを基に札幌市西区の酒販店へ精力的に訪問し始めました。そして受注して頂いたホワイトの在庫を倉庫から引っ張り出し、自らの手で酒販店のよく目立つ位置に並べる活動をひたすら繰り返したのです。期限は3週間、目標陳列店数は100店、それからというもの営業のイロハもわからぬまま、朝から晩まで一日に約15店ほどの酒販店を訪問し、「サントリーの神田です。ホワイトのキャンペーン受注、ありがとうございました。つきましてはお店にあるホワイト3ケースを陳列させて頂けないでしょうか?」というと、「あら、サントリーさんが訪問してくるなんて珍しいわね。裏の倉庫にある在庫を勝手に陳列してもらってもいいわよ」と言って、どの酒販店も快く陳列に協力してもらうことができました。当時、サントリーウイスキーが全盛の時代で、酒販店におけるサントリーの影響力は相当に大きいものがあったため、新人といえどもサントリーの社員が一般の酒販店に訪問してくることなどはめったになかったからです。
土日も返上してひたすら酒販店を訪問し、ホワイトを店頭に並べ陳列写真を撮って回る日々が続きました。そして会社に戻り、ホワイトの陳列写真を自分の机の前の壁に貼り付け、2週間ほど経った頃にはその張り付けられた写真の数は70枚を超えるまでに達していました。当初私の言動に半信半疑だった課のメンバーのみんなも、「おう、神田。今日は10店もやってきたのかか、よく頑張ってるな~」、「神田、きょうも陳列活動、ご苦労さん」と私に称賛のまなざしで温かく見守ってくれるように変わってきていました。「よし、この調子でいけば、3週間で100店達成も間違いない!」と確信していたその矢先、ある酒販店で思わぬ出来事が起こったのです。
「サントリーの神田です。ホワイトの受注キャンペーンの件で、陳列写真を撮りにきました、ご協力宜しくお願いします」といつものように元気よく挨拶したあるX酒販店で、いつものお決まりのように「いいわよ、倉庫にある商品をここに並べて写真を勝手にとって下さい」という言葉を待っていた私に、その店の奥様が冷ややかな表情で私にこう言い放ったのです。「ちょっと聞くけど、あなたは何のためにここに訪問しにきたの?」と。私はすぐさま、「今、私は社内でこの陳列活動を100店やると宣言していて、目標まであと1週間で30店になりました。残りの計画をやるためにこのお店に陳列のお願いをしに来ました」と堂々と答えました。
すると続けてその奥様が、「申し訳ないんだけど、私がこのお店をやっているのは、あなたの社内のノルマを達成するためにやっているんじゃないのよ」。そして続けざまに「あなたは、あなた自身の目標を達成するため、つまり自分のノルマを達成するためにここに来ているかも知れなけれど、私はここに来てくれるお客様に喜んでもらうために商売をやっているのよ」、そして最後に私にこうトドメを刺したのでした。「わかったらさっさと帰りなさい、あなたのような自分のことしか考えていない営業って最低、ほんと気分が悪いわ!」と吐き捨てるように私に言い放ったのです。
今までとは全く違った厳しい対応に私は大きな衝撃を受け、すぐさま深く頭を下げてお詫びをしたのち、その店からそそくさと退散したのでした。それからの数日間というもの、その酒販店の奥様の言葉が頭から離れずショックでショックで、もう陳列のために酒販店を回る気力も失せてしまい、”3週間で100店陳列”という目標意識を失いつつありました。
しかし、よくよく考えると彼女の言っている通り、酒販店はそこに来るお客様に喜んでもらうためにお店を営業しているのであって、メーカーのセールスのために営業しているのではありません。逆にメーカーのあるべきセールスの姿は、酒販店に来るお客様に喜んでもらえるよう、商品を通じてお役立ちすることだと。そんなことも考えずに、自分の都合ばかりを考え、一方的に商品の陳列を強要していた自分がほんとうに情けなく、大いなる反省の念が込み上げてきました。
それと同時に、その意味を厳しく私に教え諭してくれたその奥様に深い感謝の気持ちが湧き上がってくるのがわかりました。そして私はその出来事があった数日後、意を決して再びそのX酒販店を訪問し、奥様に向かって「先日は大変失礼をいたしまして、本当に申し訳ありませんでした。営業としての大切な部分を忘れていました。こんな未熟な私をお許しください。色々とご指導頂きほんとうにありがとうござました」といって私は深々と頭を下げ、ずっとそのままの状態を続けました。
そんな私の姿をみた奥様はうっすらと優しく微笑みながら、「あなただったら、必ずまたここにやって来ると思っていました。かなり粗削りだけれど、陳列に賭ける熱意は半端じゃないものを感じていましたから・・・私も少し言い過ぎたと深く反省していたんです」と。その言葉を聞いた私はなんだかうれしい気持ちでいっぱいになり、「ありがとうございます」とまた深々と頭を下げながらその場を立ち去ろうとしたとき、奥様がまたにっこりと笑って私に「あそこを見てください、うちで10ケース全て陳列してこの写真を撮っておきましたよ」とその写真を私に差し出したのだ。とっさに左の方を振り返った私の目に飛び込んできたのは、お店の一番目立つスペースに広くドーンとホワイトが陳列されている光景でした。それを見た私は思わず涙をこらえながら、また何度も何度もお礼を言って頭を下げたままでいたのを記憶しています。
話はそれで終わりではなかった。続けて奥様は「あなた、まだ陳列のノルマ残っているんでしょう?」といって、そこから地区の酒販組合仲間の酒販店の店主に次つぎと電話をし、「ここに熱心なサントリーの営業マンがいるので、まずホワイトを36本仕入れて、それを全てお店に陳列して写真に撮って、私のところに持ってきて欲しいの」と矢継ぎ早に30件近くの酒販店に声をかけてくれたのだ。あとでわかったことですが、その奥様の亭主は札幌市西区の酒販組合の組合長で、このエリアの同業者達から一目を置かれる影響力のある存在だったのです。
先日この店で厳しい言葉でシヨックを受けて以来、すっかりやる気をなくしていた私は、「もう100店達成は無理かもしれない・・・」とあきらめかけていたところでしたが、彼女の紹介の協力もあって、20店近くの陳列写真を上積みできたことで息を吹き返し課長との約束通り、「3週間で100店舗の陳列をする」という目標を達成することができたのでした。この時のことは、いまでも痛烈に私の脳裏に刻みこ込まれています。

当時、右も左もわからない新入社員だった私がこの経験を通して学んだことは、営業はまずは「お客様の喜びのために」というお役立ちの精神が必要だということです。ともすれば「売りたい、ノルマを達成したい」という自分の「欲」に囚われすぎると、自分しか見えなくなり、「お客様の喜びのために」という営業の本質を忘れがちです。それはセールスとして「何のために自社の商品を売るのか?」という自分自身への問いに他ならない。これはまさにあのX酒販店の奥様から教えられた言葉だといえます。
そしてお客様へのお役立ちの為には、「お客様がどんなことを求めていて、どんなことで喜んで貰えるのか」を知ることが必要になる。そのためには、お客様に対しての思いやりを忘れず誠実な姿勢でお客様との信頼関係を築くことが不可欠になります。私もひょんなことからX酒販店の奥様との信頼関係ができたことで、あっという間に私がすべきだった20店近くの陳列写真を頂くことができました。逆に考えれば、一旦、お客様との信頼関係さえできてしまえば、商品を売ることはそんなに難しいことではなくなるはずです。
そしてもう一つ。営業は「熱意が肝心」だということです。今回の私の事例(結果オーライではあるが)でもわかるように、熱意はお客様との信頼関係を築くうえでのひとつの武器となります。やはり人の心は言葉ではなく、人の心でしか動かせない。自身の心に秘めたる「熱意」は表面には出なくとも、相手の心には必ず伝わる。言葉だけ美辞麗句を並べても、相手は見えないその薄っぺらな心持ちをすぐに察知されるに違いありません。

奇しくも100店という無謀な陳列目標を結果的に達成できたのも「何が何でも100店を絶対に達成する!」という私のほとばしる熱意に燃えていたことが酒販店の奥様の心を動かしたのは事実だと思います。そしてまた、毎日毎日、電話での注文を受ける退屈な毎日に嫌気がさしていた私に、外に出で営業活動にチャレンジすることを許してくれた当時の課長も、あのときの私の「熱意」を感じ取り、「そこまでいうなら、やってみなはれ!」と私に言い放ってくれたのではないかとも考えています。
そして最後にもうひとつ。それは「謙虚ですなおな心」です。間違いを間違いと素直に認め、謝るときは真に純粋な気持ちで謝る。人間は完璧な動物ではありません。多少厄介なことが起ころうとも、それを謙虚な気持ちで前向きに受け入れ、それをすぐさますなおに次の行動に移すことのできる心が、周りの人たちの心を引き付けるのではないでしょうか?。手前みそにはなりますが、あのとき「なんであの奥さん、意地悪で嫌味なことを言うのだろう、きっと性格の曲がったとんでもない人に違いない」と私が高を括ってネガティブに受け止めていたとしたら、二度とあの酒販店に足を運ぶことはなかったし、またそこで奥様が私に協力してくれることも絶対になかったのだと思っています。
この苦い経験で私が営業として学んだことは、「まずはお客様のことを考える」、「熱意を燃やし続ける」、「謙虚ですなおな心」の3つです。このような経験はやはり、教科書(理論)で学べることではなく、行動(実践)でしか得られないものだと言えます。いまになって振り返ってみると、当時、二代目社長であった佐治敬三氏もこれと同じようなことを言っていたのを思い出します。それはサントリーのセールスのみならず、すべての社員として絶対に忘れてはいけない「あきないの情(こころ)」です。「情」と書いて「こころ」と読む。佐治敬三氏は、理学博士であったにもかかわらず独自の経営哲学を持ち、その中でいつも「商いの情(こころ)」という自身の思想を折に触れてよく社員に話していたのを思い出します。彼の「商いの情(こころ)」に関する考え方は、

  1. 品質へのこだわり: 品質を重視し、常に最高の製品を提供すること。製品のあくなき品質向上を通じてお客様に喜んで頂き、結果としてそれが企業の成功に繋がる。
  2. お客様への思いやり: お客様のニーズや要望を理解し、それに応えることが重要で、お客様との信頼関係を築くことを大切にし、常にお客様の視点に立って考える姿勢を貫くこと。
  3. 誠実な姿勢と信頼性: 誠実さと信頼性が企業活動において最も不可欠な要素である。約束を守り、誠実な姿勢で事業を展開することで、お客様や取引先からの信頼を得ることができる。
  4. 持続可能な成長への取り組み: 企業の成長を追求するだけではなく、地域社会や環境への貢献も重視していました。彼は持続可能なビジネスモデルの構築に努め、社会的責任を果たすことを重要視する。
佐治敬三氏の「商いの情(こころ)」は、品質、お客様への思いやり、誠実さ、そして持続可能な成長への取り組みといった要素が組み合わさったものだと考えます。これらの価値観は、いまでもとサントリーの営業部隊をはじめとする全社員に引き継がれ、サントリーの企業の経営に大きな影響を与えています。

 

神田 和明

神田 和明

結果の出る強い組織づくりコンサルタント

株式会社チームフォース代表
中小企業の経営者に、コンサルティングとコーチングのハイブリッド型ソリューションで「結果の出る強い組織づくり」のサポートを行い、「活力」と「成果」をお届けしています
中小企業診断士/【BCS認定】プロフエッショナルビジネスコーチ/宅地建物取引士

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