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「やってみなはれの極意②」~人的資本経営と大家族主義~
みなさん、こんにちは。株式会社チームフォース代表の神田和明です。 今回は人的資本経営と大家族主義について考えてみたいと思います。ここ直近「人的資本経営」という言葉が頻繁に叫ばれる中、企業における「人」に対する注目度が高まっています。「人的資本経営」とは従業員を企業の重要な資産とみなし、その資産を最大限に活用することを目的とした経営手法です。
具体的には、人材の採用、育成、リテンション(人材の確保)などを戦略的に行い、企業価値の向上につなげる経営のあり方を指します。つまり人をコストとしてではなく資産とみなし、そこに投資を行うことによって生産性を高めていく経営を意味しています。日本が失った30年とはまさに「人」への投資を怠り、「人」を単なる人件費という「コスト」としか考えてこなかった結果であると私は考えています。
企業の業績が悪くなれば、減俸やリストラを行うことによって最低限の利益をなんとか確保し、たとえ業績がよい時であっても、社員にその利益を還元せず、内部留保あるいは経営者や株主に回すといった、「人」に対する投資の重要性を軽んじた経営の結果といえるのではないかと思っています。

一方ではここ数年、従業員に対する企業の処遇制度に対する考え方も大きく変わってきています。それは欧米で多く採用されている「ジョブ型」に代表される人事制度の導入企業が増えていることです。これは従業員に対して職務内容を明確に定義(ジョブ・スクリプション)し、労働時間ではなく職務や役割で評価する雇用システムです。
これに対して日本の高度成長期を支えてきたのは、終身雇用と年功序列を前提とした「メンバーシップ型」制度と呼ばれる、勤務地や部署、職務内容等を限定しない働き方です。転勤、異動することも当たり前で、就職ではなくいわば就社ともいえます。時代の変遷と共に、常に「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の優劣や可否が議論となってきたのは、既にみなさんの知るところだと思います。
私はこの点についての是非を論ずるつもりはありません。ここで必要な議論は、さきほどお話しした「人的資本経営」の本質にあると思っています。人的資本経営の根底に流れる思想は、会社で一緒に働く従業員をどのように処遇するかという観点ではなく、従業員に対する考え方・向き合い方のスタンスにあると考えています。つまり従業員を商品やサービスを生みだす手段(モノ)と考えるか、共に仕事のやりがいを感じ合える仲間(ヒト)と考えるかの違いになります。
この「ヒト」に対する考え方の基本的なスタンスが、人的資本経営を推進し成果を上げるうえで大変重要なポイントになってきます。サントリーにおける従業員に対する基本的な考えを一言で表すと、いわゆる「大家族主義」に尽きるのではないかと考えています。「大家族主義の経営」とは、人の喜びを自分の喜びとして感じ、苦楽を共にし、お互いを尊重し助け合う家族のような信頼関係を基盤に、社員の物心両面の幸せを追求する経営手法です。サントリーの創業者である鳥井信治郎氏が日頃からうるさく口にしていたのは、「社員同士が困難を共有し、お互いの成功を祝い、共に成長できる環境を創り出すことが大切で、社員たちは家族のように信頼し合い、尊敬し合い助け合わなければならない」と。
つまり従業員を家族のように大切にし、その人の成長をじっくり見守るという姿勢を貫くということです。そこには社員を大切に扱い、育てることで会社に貢献できる人材に育って欲しいという強い願いが込められています。そんな当社には、“人材原酒論”というユニークな考え方がありますので、ここで少しご紹介させて頂きます。これは、二代目社長である佐治敬三氏の言葉です。
「人を育てるんはウイスキーの原酒と一緒や。原酒のなかには、最初は思ったように育たんもんがある。そういう時は栓をしてもう一度寝かしなおすんや。しばらくすると今度はまた最初には想像もせんかったような素晴らしい酒になっとる。人材は原酒と一緒。短期で決め付けたらあかん。原酒を大切に育てるように長い目で見てやらなあかん。」
サントリーグループでは創業以来、「人」こそがもっとも重要な経営基盤であると考え、人材育成を長期的な視点でとらえてきました。従業員一人ひとりがそれぞれの個性と能力を最大限に発揮し成長を続けることによって、サントリーグループ全体の価値を高め、さらなる高みへと成長を続けるのだと。

私も社員の一員としてこの「ひとり一人の社員を心から大切にする」という会社の姿勢を身をもって経験した忘れられない出来事があります。20年以上前のことだったと思いますが当時、私の娘が小学校の入学を控えていたある日、会社から一通の手紙が届きました。その手紙を開いてみるとそこには
「弥沙さん(私の娘の名前)、小学校ご入学おめでとうございます。これから小学校に入って伸び伸びと学校生活を楽しまれてください。ほんの会社からのお祝いの気持ちですが、ランドセルを送らせてもらいます。サントリー株式会社・代表取締役社長 鳥井信一郎(当時の社長)」という手紙と一緒にランドセルのギフトカタログが同封されていました。
のちに入学式でそのランドセルを背負って楽しそうにしている娘を見た私は思わず目頭が熱くなり、涙があふれだしていたのを思い出します(これを書いている瞬間にもまた涙が出できました)。この娘の喜ぶ様子をじっと見つめながら、私は絶対にこの会社にもっともっと貢献できるよう、持てる力を十二分に発揮すべく死力を尽くそうと心に堅く誓ったことを思い出します。

とはいえ、時代や価値観の変化の激しい時代には、このような大家族主義の思想が全てプラスに働くとは限らないのもまた事実だと思います。家族的な雰囲気であるがゆえ、甘えが蔓延したり家長であるオーナーの影響力が強くなることで特定の人々が家族内での意思決定や権力を握りやすくなり、個々のニーズが無視されたりするなどの弊害が起こります。
大家族主義というと、社員を甘やかすことにつながるのでは?と思われるかもしれません。しかし、実際にはそうではありません。「甘え」を制する厳しさと真の実力主義を徹底することも必要です。大家族主義の本質は、「一人一人を尊重し、その能力と可能性を最大限に引き出す」ことにあります。それは単に「甘やかす」こととは全く異なり、むしろ社員一人ひとりが自己成長に取り組み、全力を尽くすことを期待する経営スタイルです。たとえば、親であれば、子供のためを思って厳しいことも言うものです。家族主義の経営も同じで、社員のためを思うならば、厳しい対応を取ることも躊躇しないという姿勢が必要になります。
しかしながら、繰り返しになりますが一番重要なのは、大家族主義の良し悪しではなく、基本的な思想としてまず「従業員を心から大切に思う」ということが大変重要なのではないかと考えています。人間は口でいくらうまいことを言っても、相手が自分に対してどのような感情を抱いているかをすぐに察知する動物です。ゆえにすべては会社(経営者)からの従業員に注がれる心からの思いやりに尽きるのです。
話は全く変わりますが、かつてカクテルブームを巻き起こすきっかけとなり、サントリーの大ヒット商品となった「サントリー・ザ・カクテルバー」で永瀬正敏演がのCMで演じた際の「愛だろ、愛。」というキヤッチコピーがありました。当時30代前半だった私は、「なんていいかげんなコピーなんだろう?意味が全く理解できない」と思っていましたが、60代となったいま考えると、このCMを担当したコピーライターがどのように考えていたかは別にして、このコピーの意味が何となく理解できるような気がしています。
ちょっと話が横道に脱線してしまいましたが、私が考える人的資本経営の本質とは、従業員に対する「愛」に尽きると思っています。その愛とは何か。まさしくそれは、損得抜きに家族に注がれる無償の「愛」といえるでしょう。自分の可愛い我が子を一人前に育てる目的が、それまでかけたより多くの時間や費用を回収したいためという親はいないと思います。まさに家族とはこのような無償の「愛」のつながりによって成り立っているのです。
人材原酒論で2代目社長の佐治敬三氏が語っていたように、社員を短期的な目で見て判断するのではなく、「愛」という投資をし続けることによって、大きく人としての成長を促す。そのような「愛」で社員同士がつながっているサントリーだからこそ、どんな困難や苦難にあっても、家族(従業員)全員で力を合わせて、「あきらめず、へこたれず、しつこく」乗り越えてきたのだと感じています。 「愛」は限りなく深くその人材を成長させる人的資本経営の源といえるのではないでしょうか.
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




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